少子高齢化が急速に進んでいる日本において、水道屋として事業承継問題を抱えている事業者も少なくありません。経営者の高齢化などで事業承継が難しくなる前に、自社の経営状況やリスクを的確に把握し、解決策を考える必要があります。
本記事では、水道業者における事業承継の種類やメリット、認識すべき問題点などについて解説します。水道屋の事業承継事例も紹介しますので、事業の存続について検討する際にぜひお役立てください。
事業承継とは?
事業承継とは、企業の経営権や物的資産などを後継者へ引き継ぐことです。事業承継では、「経営権」「経営資源」「物的資産」という3つの要素の引き継ぎを考える必要があります。
創業者または先代から事業を受け継ぎ、成長発展してきた企業は思い入れが強い存在でもあり、次世代へ引き継ぐ事業承継は経営者の重大な責任でもあります。これまでの日本の中小企業では、創業者の子供や親族、信頼できる部下などを後継者とすることで、経営を継続する方法が一般的でした。
しかし近年は、さまざまな理由で後継者が見つからず、経営者の高齢化により廃業や休業、解散を余儀なくされるケースも増えています。技術力の高い水道屋のように、優良な中小企業を存続させることは、現在の日本における重要な課題の1つとなっています。
事業承継と事業継承の違い
「事業承継」と「事業継承(けいしょう)」は、文字を入れ替えただけですが受け継ぐものが異なります。事業承継の場合、「地位・精神、身分、仕事、事業」など先代が守ってきた無形財産や考え方を受け継ぐことを指します。
一方、事業継承は「義務、財産、権利」といった所有物や具体的な資産を先代から受け継ぐ場合に使われます。なお、法律上や税制上では「事業承継」を用いるのが一般的です。
事業承継の種類
事業承継は、受け継ぐ人が誰かによって「親族内承継」「従業員承継」「M&A(合併と買収)」の3種類に分けられます。それぞれのタイプの特徴やメリットを見ていきましょう。
親族内承継
親族内承継とは、現経営者の親族へ事業を引き継ぐことです。経営者の子供をはじめ、甥や姪などに引き継ぐケースも含まれます。従来は、中小企業の事業承継というと経営者の長男が後継者となるのが一般的でしたが、現在では親族内承継は珍しくなっています。
親族内承継の場合、後継者が引き継ぎを決心するタイミングにもよりますが、他の事業承継と比べて育成期間を確保しやすい傾向があります。また、経営権・経営資源・物的資産の3要素をいつ頃承継するか、時期を柔軟に決定することが可能です。
加えて、通常は贈与や相続と絡めて物的資産を引き継ぐことができ、さまざまな制度を活用して税法上でメリットを得られる可能性があります。
従業員承継
従業員承継は、企業の役員や従業員が経営を引き継ぐことです。日々の仕事ぶりや周囲からの評価などを見た上で、経営者としての適性や能力のある人材を後継者に選定できます。また、実務上の引き継ぎがスムーズで、他の従業員からの納得感も得られやすいでしょう。
長く働いている従業員に任せる場合は、経営方針などの一貫性も期待できます。なお、経営権の承継とともに、物的資産として株式を承継するのが一般的です。後継者へ株式を売却すれば、現経営者が売却益を得ることもできます。
M&A
M&A(合併と買収)による事業承継は、後継者にふさわしい第三者(または企業)を幅広く探し、事業を引き継ぐことです。M&Aでは、技術やノウハウといった経営資源の承継のために半年〜1年ほど期間を設ける場合もあります。
M&Aによる事業承継では、後継者として最適な人物を幅広く探すことができます。個人にとどまらないため、自社事業との相乗効果が期待できる企業の経営者に任せる、といった選択肢もあります。また、廃業と違って事業を後世に残せる上、従業員の雇用を守ることにもつながります。
事業承継を行うメリット
廃業ではなく事業承継を選ぶことで、さまざまなメリットが期待できます。ここでは、主に4つのメリットを紹介します。
会社を存続できる
事業承継による最大のメリットが、会社を後世に残せることです。企業は、従業員を雇って利益を得て、給与として配分するだけでなく、製品やサービス、開発技術といった自社の財産や社会的価値を保有しています。
創業者や経営者は人生をかけて事業や企業組織を育てており、強い思い入れがあるはずです。後継者が見つからず廃業してしまえば、培ったものがすべて消滅してしまいますが、事業承継によって企業の提供する価値を維持できます。
従業員の雇用を確保できる
事業承継をすることで、現在の従業員の雇用を継続できます。廃業してしまった場合、働いている従業員は別の仕事を探す必要が出てきますが、事業承継で企業が残れば働き続けることが可能です。
ただ、経営者が変わった後に経営方針が変化し、雇用条件や労働環境にも影響が及ぶ可能性があります。例えば、同じ仕事や役職でも給与が下がる、労働環境が変わる、といった場合、従業員が不満を感じて辞めてしまうかもしれません。
売却や株式譲渡による利益を得られる
事業承継により、現経営者は株式や事業の売却益を受け取ることができます。廃業した場合は、残った会社の資産は配当金として株主に分配する必要があります。
また、設備や在庫の処分などの廃業費用が増えて、負債が上回る場合もあるので、状況によっては事業承継の方が利益を獲得できます。
税制における優遇を受けられる場合がある
親族内承継の場合、事業承継税制によって優遇を受けられる場合があります。後継者が事業用資産や株式などの資産を、先代から相続や贈与として受け継ぐ際に、一定の要件を満たすと納税を猶予することが可能です。
制度を利用するためには、中小企業庁の定義として定められている従業員数や資本金額の条件を満たしている必要があります。また、承継時までの経営見通しをまとめた特例承継計画の策定も必要です。
事業承継で認識すべきリスク
事業承継はメリットが多い一方で、デメリットやリスクもあるため、事前に理解しておく必要があります。ここでは、事業承継で考えられる主な3つのリスクについて解説します。
後継者と従業員など周囲との対立
親族内承継の場合、後継者となる子供や親族と従業員などの周囲との関係性が重要です。特に、現経営者の子供が引き継ぐ場合、経営者の年齢が大きく変わり、役員などと世代による認識の違いが生まれる可能性があります。
残された企業や事業をスムーズに運ぶためには、親族が後継者となることを従業員が理解し、受け入れてもらうよう配慮する必要があります。また、経営方針や事業の方向性を後継者を含めて全社的に擦り合わせし、課題や問題点に対する対策を明確化するなど、引き継ぎを計画的に準備することが大切です。
負債や個人保証の引き継ぎ
事業承継で後継者が引き継ぐ3要素には、負債や個人保証も含まれます。設備投資などによる借金や負債が多額に上る場合、後継者が返済に追われることになります。
また、金融機関からの借り入れなど、経営者の個人保証(法人の信用力を補完するために経営者本人を人的担保とする)も引き継がれます。経営をスムーズに進める上でリスクとなる要因を明確に把握し、しっかり伝達しておくことが大切です。
相続における遺留分の扱い
相続による事業承継では、遺書を残すことで事業用資産を後継者に相続することが可能です。ただ、複数の相続人がいる場合は、後継者以外の相続人から遺留分を求められる可能性があります。
遺留分は、相続人に認められる最低限の権利です。現経営者が資産の相続先を後継者を決めていても、他の相続人が相続の権利を主張できます。相続に関してトラブルとならないためにも、家族で話し合っておくことが大切です。
事業承継の流れ
ここからは、事業承継のおおまかな手順を解説していきます。
事業承継に向けた準備・計画
事業承継に向けて、早めに準備や計画を始めましょう。一般的には、事業承継の方法や後継者などを決めるにあたって、専門家に相談します。準備が遅れると、最適な手段を実行することが難しくなる場合もあります。
いずれの事業承継の種類でも、後継者の選定から育成、定着までには時間を要するため、十分な育成期間を確保するためにも早めにスタートしましょう。
経営状況・課題の可視化
企業の経営状況や課題を把握し、可視化します。自社の強みと弱みを客観的に把握するために、財務状況や将来の見通し、事業の持続可能性、商品力やビジネスモデルといったさまざまな項目について見える化しておきます。
経営者が1人で進めるよりも、専門家や金融機関に協力を仰ぐ方が効率的に進められるでしょう。可視化した後は、優良顧客の確保や金融機関・株主との良好な関係の構築、優秀な人材の確保など課題解消に取り組むことも大切です。
事業承継計画の策定
後継者となる親族や従業員、第三者への事業承継計画を策定します。これまで経営者が大切にしてきた企業に対する想いや信条を改めて認識し、スムーズに引き継げるようにすることが大切です。
事業承継の実行
事業承継を実行するにあたって、資産の移転や経営権の移譲といった手続きを行います。税務対応や法律に関する手続きが必要になる場合もあるため、弁護士や税理士、公認会計士など専門家に協力を依頼してみましょう。
また、金融機関に相談すると、今後を含めた資金繰りや株の譲渡、税金対策などについてアドバイスを受けられます。
水道屋における事業承継の事例(株式会社小池設備)
実際に事業承継を行った水道屋の事例を紹介します。株式会社小池設備は、神奈川県相模原市にある水道業者です。2代目の代表取締役を務める小池重憲さんは、高校時代から家業を手伝っていましたが、29歳で父親が急死し、後継者として経営を引き継ぐタイミングが突然訪れました。
一時は社長交代に納得できない従業員が次々と辞めてしまったものの、社員の働きやすさを見直し、経営状況の立て直しに成功しています。現在は、地域貢献を目的としたイベントを開催するかたわら、水道事業の後継者問題を解消するためにM&Aによる支援構築を検討するなど、積極的に活動しています。
また、関西を中心に50以上の地域で水道事業を展開するA社では、社長には自分の子供に事業承継する意思はなく、従業員のほとんどが職人であったため、社内に経営戦略やマーケティングを任せられる人材がいませんでした。
取引先の金融機関からA社のM&Aを打診されたB社は、既存事業であるビルの管理・清掃業とのシナジー効果が得られると判断し、M&Aの実行を決断。
結果的に、A社は経営層が一新されて、マネジメント体制の整備や経営基盤の強化といった効果が出ています。また、B社は既存顧客にA社のサービスを提供することができ、売上向上や新規顧客の開拓を実現しています。
水道事業を存続させるためには人材育成と業務効率化が重要!
水道屋をはじめ、日本の中小企業における後継者問題は社会的な課題の1つです。事業承継には親族以外にも、従業員やM&Aによる第三者を後継者とする方法があります。先代が大切に育ててきた会社や従業員の働く場所を守るために、最適な事業承継方法を検討し、早めに準備を始める必要があります。
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