経営者の代わりとして工事現場を管理する「現場代理人」は、工事をスムーズに進めるために欠かせない存在です。しかし、経営者の代わりとなり得る人材がいないと嘆いている経営者の方も多いのではないでしょうか。現場代理人がいれば自身の業務負担が軽減され、対応できる工事受注数も増えるはず。そこで、建設関係の経営者の方に向けて、現場代理人の役割や資格要件、主任技術者・監理技術者との違い、現場代理人を育成するためのポイントを解説します。
現場代理人とは?
現場代理人とは、工事現場で工事請負業者の代わりに責任者を務め、現場全体の管理を行う立場です。工事請負業者の経営者が現場責任者として管理するのが本来の形ではあるものの、現場が何カ所にも及ぶと経営者一人で管理するのは現実的ではありません。そこで、従業員のなかから現場代理人を決めて現場管理を一任するのが一般的です。
現場代理人の主な業務内容は、現場の安全管理はもちろん、工事を円滑に進められるように工程管理、請負代金額の管理、各業者との打ち合わせ、周辺住民や企業などから寄せられる苦情への対応などがあります。
なお、建設業法では現場代理人の配置が義務付けられているわけではありませんが、だからといって現場代理人を置かなくてもいいというわけではありません。詳細は後述しますが、民間の工事では請負契約書の内容により、配置や常駐の有無が決まります。公共工事では、国土交通省が策定した「公共工事標準請負約款」で配置が義務付けられているため「法律上の配置義務はないが、契約上の配置義務はある」という形です。ただし、常駐義務の緩和措置により常駐しなくても良いケースもあります。
兼務は可能?現場代理人と主任技術者・監理技術者・現場監督の違い
建設現場で管理者となるのは、現場代理人以外に主任技術者・監理技術者・現場監督がいます。まずは、それぞれの役割とポイントを紹介します。
◆主任技術者
品質管理、安全管理、工程管理、施工計画作成などを行い、適正な施工ができる環境を確保する。特定建設業者が元請けとして4000万円(建築一式工事の場合6000万円)未満の工事を請負う場合、下請けはすべての工事で主任技術者の配置が必要。
◆監理技術者
主任技術者が受け持つ業務に加え、施工について下請け業者を適切に指導監督する。特定建設業者が元請けとして4000万円(建築一式工事の場合6000万円)以上の工事を請負う場合は監理技術者の配置が必要。
◆現場監督
現場の施工管理、安全管理、施工費用の管理調整などを行う。法律上の定義がなく、一般的には主任技術者・監理技術者を現場監督と呼ぶことが多いものの、現場代理人を現場監督と呼ぶこともある。
◆現場代理人
安全管理、労務管理、工程管理、請負代金額の変更・請求・受領、各種交渉など、建設工事の施工に関わるすべての事柄に対応する。公共工事の場合、同一現場であれば主任技術者などとの兼務が可能。
このように見るとどれも同じような職種に見えますが、以下のような違いがあります。現場代理人や現場監督は、資格が必要なく雇用関係も問われないため法律上は誰でも担当できますが、契約上で制限されているのが一般的です。
建設業法における現場代理人の配置義務
現場代理人の配置義務について、建設業法では定められていないため現場代理人を置かなくても法律違反とはなりません。ただし、すべての工事で現場代理人を配置しなくても良いわけではないので注意しましょう。
まず、民間工事の場合、発注者と受注者のあいだで取り決めた契約書に現場代理人を配置する旨が明記されていれば配置の必要があります。一方、公共工事では現場代理人の配置義務について、公共工事標準請負契約約款で定められているので配置が必須です。公共工事標準請負契約約款とは、発注側と受注側それぞれの具体的な権利義務の内容を定めているもので、国や地方自治体をはじめ、電力、ガス、JR、NTTなど民間企業の工事についても適用できるように作成されています。
また、現場代理人の常駐については、平成22年に行われた公共工事標準請負契約約款の改正に伴い、常駐の条件が以下のように緩和されました。
“① 工事の規模・内容について、安全管理、工程管理等の工事現場の運営、取締り等が困難なものでないこと(安全管理、工程管理等の内容にもよるが、例えば、主任技術者又は監理技術者の専任が必要とされない程度の規模・内容であること)
② 発注者又は監督員と常に携帯電話等で連絡をとれること
出典元:現場代理人の常駐義務緩和に関する適切な運用https://www.mlit.go.jp/common/001027239.pdf
このことから、ごく小規模な公共工事で、携帯電話などですぐに連絡取れるような体制が整っている場合は、常駐しなくても良いことになります。ただし、工事業者の考えで常駐する、しないを判断できるのではなく発注者側の判断になるため、ケースバイケースと考えておくのが無難です。
現場代理人育成のポイント
社内で現場代理人を育成できれば経営者の負担を軽減することができます。そこで、現場代理人の資格要件や必要スキルなど、現場代理人を育成する際のポイントを紹介します。
1.現場代理人の資格要件
現場代理人となるためには、実務経験や資格は必要ありません。あくまでも法律上は誰でも現場代理人として現場を任せることが可能です。とはいえ、建築や土木の施工に関する経験も知識もなければ現場を回すのは難しいですし、現場の作業員から信頼を得ることも難しいでしょう。また、現場代理人が主任技術者や監理技術者を兼務するケースでは、建設業法で定められたそれぞれの資格要件を満たしている必要があります。主任技術者の資格要件は、学歴に基づく要件を満たすか、必要な国家資格を取得または民間資格の取得後一定期間の実務経験を積んでいることが条件です。監理技術者の場合は、実務経験や保有資格について業種ごとに定められています。
2.現場代理人に必要なスキル
自社の従業員を現場代理人として育成するためには、スキルを高めることが欠かせません。実際の建設現場で現場代理人に求められるスキルは以下の要素が挙げられます。
◆管理能力
現場代理人の主な仕事は現場の管理業務であり、経営者に代わって現場を取り仕切ることです。そのため、的確な指示を出して作業員を管理する能力は最も必要なスキルと言えます。現場を適切に管理できなければ、予定したスケジュール通りに工事が進まないうえに、事故のリスクも高まってしまうでしょう。管理能力を高めるためには研修が効果的です。たとえば、社内研修で現場代理人として従事するために必要な知識を身につける機会を設けたり、自社が受け持つ現場に出て学んでもらったりするのも良いでしょう。社内で教育の機会を設けるのが難しい場合は、協力企業の現場に管理者候補として出向させ、必要なスキルを高めてもらう方法もあります。
◆判断力
現場代理人には、その時々で素早く正確な判断が求められます。建設現場は、どんなに注意を払っていても事故が起こるリスクがあるため、不測の事態が生じた場合でも冷静に判断して対応できるスキルが必要です。また、天候の影響などで工事の進捗スピードが著しく遅くなってしまった場合、工程を組み直したり発注者側との調整をしたりするなど、適切な判断が必要になります。受注者側の理由で工事完了日までに終了できない場合は遅延損害金が発生する場合もあるので、現場代理人には迅速かつ臨機応変に適切な判断をする力が不可欠なのです。判断力を養うには現場での経験が重要になるので、従業員を現場に向かわせて場数を踏んでもらうのが効果的でしょう。
◆契約に関する知識
発注者と受注者が契約書にサインをして契約が成立すると、法的な責任と義務が生じます。現場代理人は請負契約の代理人となるので相応の責任ある立場です。現場代理人が契約内容を理解しないまま工事現場の管理者として業務を行った場合、重大な契約違反によりトラブルを引き起こし、損害賠償を請求されるおそれもあります。契約に関する知識を身につけてもらうには、社内に適切な人材がいなければ外部から講師を招いて研修を開催するのも良いでしょう。
◆「お金」に関する知識
現場代理人の業務には、施工管理以外に金銭管理もあります。請負金額が数十億円に及ぶような大きな工事現場になると資材も人材も相当な金額になり、現場の管理と同様にお金の管理が重要です。なかでも押さえておきたいのは、工事代金の請求や受領も現場代理人の重要な業務ということ。請負代金の大きな工事になると、代金の請求や受領が遅くなるほど自社の資金繰りに影響が出るおそれがありますし、協力業者に迷惑がかかるかもしれません。たとえば、下請け業者への支払予定日に間に合わず、1週間ほど支払いが遅れてしまうと、下請け業者や孫請け業者の経営が成り立たなくなるおそれもあります。お金に関する知識を身につけてもらうには普段の業務で落とし込むほか、研修制度を設けるのも有効です。
◆コミュニケーション能力
現場代理人がすべての工事関係者と積極的なコミュニケーションを取ることにより、工事が円滑に進みやすくなります。発注者との調整、近隣住民への対応、現場で発生する何らかのトラブルへの対処、施工に関して下請け業者から質問された場合の対処など、コミュニケーション能力が求められる場面が多々あります。言い換えると、コミュニケーション能力のない現場代理人が現場を管理するのは大きなリスクがあるということです。コミュニケーション能力の向上は管理能力にも良い影響を及ぼすので、従業員教育に力を入れるべきでしょう。まず、普段の従業員間のコミュニケーションや、外部との会話している様子などを確認することで従業員のコミュニケーションスキルを把握できます。そのうえで、コミュニケーション能力を高める施策を講じたり、必要に応じて研修を開催したりするのも良いでしょう。
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