建設業における請求書の役割と特徴
請求書とは一般的に、顧客にサービスや商品を提供した後に内訳や数量を明確にした上で代金を支払ってもらうために発行する書類です。請求の内訳を書類として残すことで、サービス・商品の提供内容をチェックしたり、代金の未払いによるトラブルを防ぐことができます。
一方、建設業の場合は工期の途中でも出来高払いの形で代金を請求する場合があるのが特徴です。契約内容によっては、工事前の着手金を請求する場合もあります。中間金の請求では工事の進捗状況を必ず確認するため、確認結果を工程に反映させて工事品質を向上させることができます。工事関係者とコミュニケーションをとるチャンスも生まれるので、工事に関する思い違いも防止できます。つまり、建設業の請求書では単に代金を請求するだけでなく、工事状況のチェックツールとしての役割を持っているのです。
建築業における請求書の書き方・作成の留意点
建設業では、工事代金の請求時期を契約書で取り決めておくのが一般的です。業界特有の用語もわかりやすい言葉に置き換えて記載すれば、誰が見てもわかりやすいでしょう。ここで、建設業における請求書の書き方や作成上の留意点、人工の計算方法について確認しておきましょう。
請求書に記載すべき項目
まずは請求書に記載するべき項目について解説します。請求書にはフォーマットはないので、ここで紹介する基本的な項目が入っていれば形式は問題ありません。
請求相手の宛名
請求書の左上に、請求先の会社名や氏名などの情報を記載します。
宛名は省略せずに正式名称を用いて「◯◯株式会社 御中」または「◯◯株式会社 ◯◯様」と記載します。
発行者の情報
誰が請求書を発行しているのか明確に記載します。
会社名や住所を記載し、社判または担当者の捺印をします。
取引内容
納品した品目・品番・数量・単位・単価・金額を記載します。
何をどれだけ納品したのかわかるように、明確かつ正確に記載しましょう。
数量は「一式」として記載する場合もありますが、取引品目は細かく明記しなければ相手に伝わらないので注意が必要です。
金額は税抜き表記となります。
値引きがある場合は「ー」「△」「▲」などを使ってマイナスの金額であることを明示します。
小計
取引内容に記載したすべての金額を合計し、税抜きの合計金額を記載します。
請求金額
取引内容に記載した金額をすべて合計し、消費税を足した金額を請求金額として記載します。
一人親方の場合、元請けが雇用契約で事務処理をしていることによって源泉徴収が発生するケースもあります。
源泉徴収の対象になる場合は、小計と消費税の合計から源泉徴収を差し引いた金額を記載します。
振込先
請求金額を振り込んでもらうための情報を記載します。
金融機関名・支店名・口座番号・口座名義を正確に記載します。
銀行コードや支店コードも記載していると親切な印象を与えられます。
口座名義はカタカナで記載してください。
請求書番号
請求書番号は、請求書に関する問い合わせがあった場合にスムーズな対応ができるように記載が必要です。
取引先が請求書を管理するためにも欠かせません。
取引回数が多い相手先の請求については通し番号をつけておくと管理が容易になります。
発行年月日
請求書の発行年月日を記載しますが、取引先によっては発行年月日が決まっている場合もあるので、相手方の都合に合わせるのが一般的です。
備考
請求書に関する補足事項を記載します。
たとえば、代金の振込手数料は誰が負担するのか、いつまでに振り込んでもらうのかなどを記載しましょう。
人工による作成方法(応援作業など)
建設業の請求書では、作業員1人あたりの1日分の人件費を「人工」という単位と表記する場面が多いです。例えば、2日間で作業員5人が工事に携わった場合は「10人工」と表記します。人工費を請求する場合も、一般的な請求書と同じように以下の内容を記載します。
・請求日
・請求内訳
・人工の数量
・単価
・消費税額
・税込請求額
請求内訳には、作業員の人数・稼働した日数と工事名を明記します。ただし「人工出し」「人夫出し」と記載すると、法令違反を疑われる恐れがあるのでご注意ください。また、人工費は外注費にあたるので消費税も一緒に請求します。
専門用語は一般的な言葉に置き換える
誰が見ても請求内容がわかるように、専門用語は一般的な言葉に置き換えた上で請求書に記載するようにします。請求書は会社の税務処理にも使われる書類で、建設関係者だけでなく税理士などが確認する場合があるからです。例えば、床や壁などを保護するために用いる「養生」は「保護材」と置き換えるなど、工事内容をわかりやすく伝えることを考えて表現するようにします。
特に一般顧客へ請求書を発行する場合、専門用語をできるだけ使わないよう配慮すると工事内容を説明しようという気持ちが顧客に伝わり、信頼獲得につながるでしょう。どうしても一般的な言葉への置き換えが難しい場合は、請求書の備考欄などで詳細を説明するようにしましょう。
請求方法は事前に請負元に確認しておく
工事代金の請求方法を契約の段階で請負元と取り決めておくと、代金未払いなどのトラブルを防止できます。
前述したように、建設業では工事の完了前でも着手金や出来高払いの形で中間金を請求するのが主流です。工期途中で資金繰りに困らないよう、出来高検査を行う時期と基準を明確にした上で確実に代金を受け取れるよう準備しておきましょう。追加工事や工事の不適合が発生した場合の対応方法についても取り決めておくようにします。また、建設業界になじみのない一般顧客に請求書を発行する場合は、あらかじめ出来高払いの仕組みを説明するなど一般的な取引とは異なるシステムだと理解を得ることが大切です。
請求書の作成手段
請求書の作成手段は、主にエクセルと請求書作成システムの2通りです。近年では、工事台帳から自動的に請求書を作成できるシステムも登場しています。それぞれのメリット・デメリットについて確認しておきましょう。
請求書にフォーマットはある?
請求書のフォーマットとして法的に定められているものはなく、必要事項が盛り込まれていれば形式は問われません。無料フリーフォーマットを活用することで、効率的に作成できます。
インターネット上でも請求書フォーマットが多数配布されているので、検索して使いやすいものを選んでも良いでしょう。市区町村などへの請求書については、各自治体のホームページ上に請求書フォーマットが公開されている場合もあります。
各フォーマットは、エクセル(Excel)またはワード(Word)に取り込んで使うものが一般的です。サイズは、ビジネス書類共通のA4縦が多いですが、A4横型のものもあります。
エクセルによる作成
エクセルがインストールされたパソコンがあれば、簡単な操作で請求書を発行できます。インターネット上で提供されている請求書のテンプレートを活用すれば、会社名や項目・金額を置き換えるだけで簡単に請求書を作成できるのもメリットです。
一方、請求データを集計するにはエクセルの操作や関数の詳しい知識が必要となり、操作の難易度が高まるのがデメリットです。請求書のファイルが増えると管理が大変になり、過去の請求データを上書きしてしまうなどのリスクも高まります。月ごと・顧客ごとにフォルダーを作ってファイルを管理する習慣をつけましょう。なお、Googleスプレッドシートなどの表計算ソフトでもエクセルと同様の請求書を作成できます。
請求書作成システムによる作成
請求書の作成にシステムを導入する場合、初期費用などシステムを導入する費用は発生しますが、請求業務の負担が軽くなるメリットがもたらされます。エクセルとは異なり、見積書の内容を簡単な操作で請求書に引き継ぐことができ、請求漏れや二重請求などのミスも防げます。
建設業に特化したシステムでは、工事台帳現場台帳・作業員日報などからも請求書の作成が可能です。しかも、得られたデータをシステムで一元管理できるので工事内容と請求データの比較がしやすく、会社の経営資料としてデータを活用できるのも魅力です。
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請求書の送付方法
請求書の送付方法は、郵送またはメールが一般的です。請求書を郵送する場合は、請求書の原本に送付状を添えます。請求書を送る旨を記す送付状は必須ではありませんが、ビジネスマナーの面からもあると望ましいでしょう。
送付状のテンプレートもインターネット上で多数見つかるので、使いやすいものを選びましょう。
近年は、請求書をメールで送るケースも増えています。メールの本文に請求書のPDFファイルを添付して送信します。相手からファイル形式を指定された場合は、合わせるようにしましょう。
中には、メールで送付しても、原本を別途郵送するよう求められるケースもあるので、メールだけで良いかクライアントへ確認しておくことをおすすめします。
まとめ
建設業での請求書作成では、人工計算や出来高払いなど一般的な取引とは異なる仕組みがとられています。代金をめぐるトラブルを未然に防ぐために、請求内訳の言葉づかいや工事代金の請求時期について十分注意した上で請求書を作成することが大切です。請求書を手間なく作成できるシステムも多数販売されているので、作業を効率化するために導入を検討してみてはいかがでしょうか。
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