見積書に記載される諸経費の金額は会社ごとに大きく異なり、顧客から疑問を抱かれるケースも少なくありません。顧客の信頼を得て適正な利益の獲得につなげるには、見積の段階で経費の内訳を明確にしておくことが大切です。この記事では、工事見積における諸経費や一般管理費・現場経費(現場管理費)の考え方について解説します。
工事における諸経費とは?
工事における諸経費とは、材料費・運搬費や作業員の人件費といった直接工事費以外の経費です。諸経費の中には現場事務所や足場の設置費用など工事を安全に遂行するために欠かせない経費をはじめ、会社の運営費用や工事で得られた利益が含まれており、公共工事では共通費と呼ばれています。
諸経費の割合は会社独自の基準で決めることができ、直接工事費の10~15%前後が目安といわれています。現場監督員の人数や工事に関連する保険の契約方法によって、諸経費に差が出る場合も少なくありません。工事見積で諸経費を安くする代わりに直接工事費を高く設定する事例がみられますが、直接工事費の比較によって失注するリスクも伴うので注意が必要です。
また、工事見積では諸経費の内訳を示さないのが一般的ですが、直接工事費と同様に顧客が関心を示す項目の一つです。顧客から内訳に関する質問を受けた場合に、諸経費の必要性や後述する各項目の概要を説明できれば信頼関係の構築につながるでしょう。
諸経費の内訳
諸経費の内訳は、現場経費と一般管理費に分かれており、会社が得る利益も含まれています。建設業の許可要件に社会保険の加入が義務づけられている関係で、諸経費とは別に現場作業員の法定福利費を独立させて見積を提示する会社も増加傾向です。
国土交通省の「公共建築工事共通費積算基準」では、現場管理費・一般管理費とは別に共通仮設費が設定されています。共通仮設費は、主に仮囲い・足場などの工事施設費や工事現場の安全設備や環境保全に必要な環境安全費などで構成されています。言い換えると、工事を安全かつスムーズに進めるために欠かせない費用です。
引き続き、現場管理費と一般管理費の概要と内訳についても確認してみましょう。
一般管理費とは?
一般管理費とは、工事の進行をサポートしたり会社を運営・維持管理したりするために必要な経費です。工事の進行をサポートする一般管理費としては以下が挙げられます。
- 減価償却費:会社が保有する車両・建設機械の減価償却費用
- 維持修繕費:会社が保有する車両・建設機械の修繕維持費用
- 開発償却費:新しい技術の採用、資源の開発費用の償却額
- 調査研究償却費:工事技術を高めるための研修費用・書籍代などの償却額
- 諸会費:業界団体への入会金・会費
次に会社を運営・維持管理するための一般管理費について見ていきましょう。
- 役員報酬:取締役や監査役に対する報酬および賞与
- 従業員給料手当:本店及び支店の従業員に対する給料、諸手当及び賞与
- 退職金:役員および従業員に対する退職金
- 福利厚生費:本店及び支店の従業員に係る慰安娯楽、貸与被服、医療、慶弔見舞金等福利厚生、文化活動等に要する費用
- 法定福利費:本店及び支店の従業員に関する労災保険料、雇用保険料、健康保険料
- 交際費:来客や得意先などの接待、慶弔見舞などにかかる費用
- 地代家賃:事務所、社宅、寮などの借地借家料
- 動力用水光熱費:電気、水道、ガスなどの費用
- 事務用品費:事務用の消耗品をはじめ、参考図書、新聞、備品などの購入費用
- 広告宣伝費:広告、宣伝のための費用
- 保険料:火災保険をはじめとする損害保険料
- 通信交通費:通信費や交通費のほか、旅費も通信交通費に含まれる
- 租税公課:会社として発生する固定資産税や自動車税などの租税および公課
- 雑費:社内での打ち合わせなどに必要な費用、上記の項目に含まれない費用
現場経費とは?
現場経費(現場管理費)とは、建設工事にあたって現場の運営に必要となる経費です。詳細は以下の通りです。
- 労務管理費:作業員の安全衛生に関する費用をはじめ、採用にかかる費用や作業用具・作業服の費用などで構成されています。
- 安全訓練等に要する費用:現場作業員の安全・衛生、研修訓練等にかかる費用
- 従業員給料手当:工事現場の作業員の給料、賞与。工事と直接関係のない各種手当も含まれる
- 退職金:現場従業員の退職金
- 法定福利費:現場で働く従業員などの労災、雇用、健康保険料など
- 福利厚生費:現場従業員の作業服、慰安娯楽、医療、慶弔見舞等の費用
- 動力用光熱水費:工事現場事務所で使う電気・水道設備の設置、電気代・水道代の費用
- 保険料:工事保険、火災保険、労災保険、その他損害保険
- 租税公課:固定資産税、自動車税、契約書の印紙代などの費用
- 地代家賃:現場事務所の地代および作業員の家賃
- 通信交通費:工事現場に必要な通信費、工事現場への交通費、工事に関わる車両のガソリン代、駐車場代など
- 外注経費:協力会社に依頼する場合の経費
- 施工図作成費:施工図を外注する場合の費用
- 補修費:工事を起因とする補修費および振動、濁水、騒音等による事業損失にかかる費用
- 交際費:工事現場への来客等の対応にかかる費用
- 事務用品費:工事現場で使用する事務用消耗品、参考図書、新聞等の購入費
- 工事登録費用:工事実績等の登録にかかる費用
- 雑費:上記に該当しない費用
諸経費の相場
諸経費は5%~10%ほどが一般的な目安となりますが、企業規模が大きいほど高額になる傾向があり、なかには20%~30%程度に設定しているところもあります。また、事業者ごとに現場の運営方法が異なる点も相場に大きな開きがある要因です。たとえば、現場監督や施工管理技士の人数、総工事費に対する一般管理費の割合などは企業ごとに違いがあります。工事保険も年間契約または現場単位の加入では金額が異なるため、諸経費に違いが出てきます。
さらに、顧客に見積もりを提出する際や入札をする際には、工事の受注につなげるために諸経費を抑えるケースも少なくありません。諸経費の算出は、本来は前述した経費を積み上げて算出しますが、より簡単な方法として自社の諸経費率を掛けて算出します。たとえば、200万円の工事で諸経費率が5%なら10万円を工事代金に上乗せします。ただし、顧客によっては諸経費や諸経費率について疑問を抱く場合もあるでしょう。事業者が自由に設定できるとはいえ、顧客に納得してもらったうえで工事の契約ができるよう、諸経費の根拠を明確に説明できることが大切です。
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まとめ
工事における諸経費は、会社の運営に必要な一般管理費と工事現場ごとにかかる現場経費に分かれています。公共工事を除いて、工事見積では諸経費の明細を示すことは少ないですが、顧客にとっては関心事の一つです。諸経費の主な内訳や工事の施工管理に欠かせない費用だと説明すれば、顧客の納得感も得られるでしょう。
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