建設業では、一人親方として活動する人も少なくありません。独立開業した直後など事業をスタートしたばかりの時期は、請求書の書き方で悩む人もいるでしょう。請求書の作成や送付、保存などの作業を効率化することは、利益の向上や業務負担の軽減につながります。
本記事では、建設業における一人親方の請求書に記載する項目や人工代の記載方法、作成時のポイントなどについて解説します。請求書の書き方を正しく理解して、日頃の業務にお役立てください。
建設業の一人親方が請求書を書くときの注意点
建設業の一人親方が請求書を作成する際には、いくつか注意点があります。ここでは、主に5つのポイントを解説します。
工事内容をわかりやすく記載する
請求書には、工事内容をわかりやすく記載することが重要です。請求書を見て、どの現場や取引に対する請求なのか判断できるように簡潔に記載しましょう。
請求書の送付先によっては、建設業界の専門用語に詳しくない可能性もあるため、わかりやすさを意識することが大切です。具体的な記載項目については、後ほど詳しく説明します。
金額の書き方(円の表記)を合わせる
請求書の金額について、表記を統一する必要があります。数字の前に「¥」を付けるか、数字の後に「円」を使うのが一般的であり、いずれかに統一しましょう。
なお、「¥」を用いる場合は、数字の後ろに伸ばし棒「-」を付けます。また、数字は三桁ごとにカンマを入れます。
端数の書き方を統一する
請求金額に1円未満の端数が生じた場合は、原則として「四捨五入」「切り捨て」「切り上げ」のいずれかから任意で処理します。例えば、税抜金額が10円単位だと消費税の計算で端数が生じる可能性があります。
税込金額の1円未満の端数をどのように処理するかは、国税庁で定められておらず、財務省でも1円未満の端数の扱いは事業者の判断に委ねられるとされています。端数の処理について独断で決めると、取引先との間でトラブルとなる可能性もあるため、請求書を作成する前に取引先と話し合って決めておくと良いでしょう。
また、すべての請求書や見積書で端数処理方法を統一することも大切です。
請求書は速やかに作成・送付する
請求書は通常、商品やサービスの納品が完了した時点で作成、送付しましょう。定期的な取引や月に複数の取引がある場合は1つの請求書にまとめるのが一般的です。ただ、いずれでも請求書の発行や送付が遅れると、クレームにつながる可能性があるため、速やかに作成・送付することが重要です。
日頃から効率的な請求書作成の作業フローを確立し、円滑に発行できるように環境を整備しておくと良いでしょう。
建設業における一人親方が請求書に記載すべき項目
一人親方が作成、発行する請求書には、以下の項目を記載する必要があります。
- 請求書の宛先(請求相手の情報)
- 請求書の発行者の情報
- 取引内容:取引年月日・品目・品番・数量・単位・単価・税抜金額
- 小計
- 消費税額
- 請求金額
- 振込先の情報
- 請求書の通し番号
- 発行年月日
- 備考:支払い期限、手数料の負担など
インボイス制度で必須となっているインボイス(適格請求書)の場合は、次の情報も必要です。
- 適格請求書発行事業者の登録番号
- 軽減税率対象の有無
それぞれについて詳しく見ていきましょう。
請求書の宛先(請求相手の情報)
請求書を受け取る相手の情報を明記します。事業者の氏名や会社名、屋号などを請求書の左上に記載します。会社名や屋号の場合は「御中」、個人の氏名なら「様」を後ろに付けましょう。株式会社を「(株)」のように省略することは避けるべきです。
また、取引先によっては発注者と異なる社名を指定されるケースもあるため、事前に確認しておきましょう。
請求書の発行者の情報
請求書を発行する請求者名を記載します。請求の主体となる法人の名称または個人の氏名を、「請求書」という題目の右下あたりに入れるのが一般的です。住所や電話番号の記載は任意で、法人の場合、部署名まで記載することもあります。
請求書を作成、発行する担当者ではなく、請求の責任を担う主体や個人を正確に記載することが重要です。
取引内容:取引年月日・品目・品番・数量・単位・単価・税抜金額
請求書がどの取引に対するものなのかがわかるように以下のような記載項目を記載します。
- 取引年月日
- 品目
- 品番
- 数量
- 単位
- 単価
- 税抜金額
上記すべてが必須ではありませんが、詳細に明記しておくことで認識ミスによるトラブルを避けられます。また、単価や単位、数量を含めることで、計算の透明性を維持することが可能です。
特に、複数の取引を1つの請求書にまとめる場合には、計算の元となる情報まで明記することが好ましいでしょう。
小計
小計は、取引ごとの税抜金額の合計です。各項目の金額を足し合わせて算出しますが、この時点では消費税や源泉徴収税は含めません。取引内容の右下あたりに金額を記載しましょう。
消費税額
消費税は、小計に対して金額を算出し、小計の下あたりに記載します。請求対象に応じて標準税率10%か軽減税率8%かが変わるため、正しく区分する必要があります。
端数処理については、前述の通り取引先と擦り合わせておきましょう。
請求金額
請求金額は、請求書に必ず記載すべき情報の1つです。取引で生じた金額を合算した小計に消費税を足した合計金額を、取引内容の左上あたりに記載します。消費税の税率区分ごとに分けて記載するとわかりやすいでしょう。
また、複数の取引が含まれる場合は分けておくと無難です。なお、源泉徴収が必要な場合は、泉徴収税額を明記し、合計金額から差し引いた分の金額を記入します。
振込先の情報
請求書の下部に、請求金額の振込先を記載します。主な項目は以下の通りです。
- 金融機関名
- 支店名
- 口座種別
- 口座番号
- 口座名義
基本的には、口座名義はカタカナで記載します。また、銀行コードや支店コードも含めておくと、相手の振込手続きに役立つでしょう。
請求書の通し番号
請求書の通し番号を書面の右上あたりに記載しておくと、管理や検索が効率化できます。番号の付け方には特に決まりはありませんが、取引先ごとや取引日時に基づいて番号を振るのが一般的です。
発行年月日
請求書を発行した日付は、取引先の指定する日時を記載します。請求書の作成日ではないケースが多いため注意が必要です。
備考:支払い期限、手数料の負担など
請求書の一番下には備考欄を設け、上記以外の必要な情報を記載します。具体的には、請求額の支払い期限や振込手数料の負担の有無などです。振込期日を明確にしておくと円滑な入金確認につながります。
期限の設定については、発注書の作成や契約の段階で取り決めておくことが大切です。また、振込手数料を相手に負担してもらう際には、その旨を記載します。
インボイス(適格請求書)の場合の記載項目
インボイス制度に対応する場合、通常の請求書に加えて以下の情報を記載する必要があります。
- 適格請求書発行事業者の登録番号(取引先と自社とも)
- 軽減税率対象の有無
発行した請求書がインボイス(適格請求書)として見なされるためには、適格請求書発行事業者の登録番号が不可欠です。登録番号は、事前に登録を行った事業者のみが取得できます。登録番号の記載がないと、消費税の仕入税額控除を申請できないため注意しましょう。
また、軽減税率対象の商品・サービスがある場合はその旨も明記します。品目1つずつに記載する必要はありませんが、請求書内での分類や税率別の請求書の発行など、扱いやすいよう工夫することが大切です。
人工代の書き方
人工代(にんくだい)とは、1日の仕事で発生した人件費のことで、技術に対する費用なども含めた金額です。人工代は実働時間によらず、1日あたりの金額で請求します。
例えば、人工代が1日2万円の契約で2人が作業した場合、1日の人工代は「2万円×2 = 4万円」となります。一人親方の請求書に人工代を記載する場合、取引内容には「人工代(2人×2日間)」といった文言にすることで、取引内容がわかりやすいでしょう。
請求書の作成方法
請求書の作成方法には、さまざまなやり方があります。ここでは、作成方法ごとのメリット・デメリットを説明します。
手書きによる作成
手書きの請求書は、文房具店などで販売されている専用の用紙を購入し、必要な情報を記入したものです。
請求書を手書きで作成するメリットとして、以下の点が挙げられます。
- 請求書の偽造や改ざんの防止に役立つ
- インターネット接続が不要
- パソコンの故障やウイルス感染などの影響を受けにくい
一方で、以下のようなデメリットが考えられます。
- 用紙の購入コストが発生する
- 手書きする労力と時間がかかる
- 保管スペースが必要になる
- ファイリングや管理方法にも工夫が必要
- 類似する請求書でも一から作成しなければならない
エクセルや専用システムに比べると手間がかかるため、ゴム印の使用などで効率化に取り組むことが大切です。
エクセルによる作成
多くのパソコンにデフォルトで搭載されているエクセル(Excel)で請求書を作成するケースは多く見られます。
エクセルを使って請求書を作成する主なメリットは、以下の点です。
- 手書きに比べて短時間で作成できる
- 複製や修正を瞬時に行える
- 関数や自動計算により入力ミスや計算ミスを回避できる
- オリジナルフォーマットやロゴ入りなど独自の請求書を作りやすい
一方で、エクセルによるデメリットとしては以下が挙げられます。
- 数が多くなるとデータ管理が煩雑になりやすい
- データの紛失や盗難を防ぐためのセキュリティ対策が必要
- 法改正に応じてテンプレートや設定を変更しなければならない
関数などを設定したテンプレートを誤っていじってしまうと形式が崩れてしまうため、フォーマットの保護などの対策も考慮しましょう。
テンプレートによる作成
インターネット上で配布されている無料テンプレートを使う方法もあります。また、取引先独自の請求書フォーマットを指定される場合もあるため、事前に確認しておくと良いでしょう。
テンプレートを活用するメリットは、以下の点が挙げられます。
- 必要事項を入力するだけで簡単に請求書を作成できる
- 無料テンプレートならコストがかからない
一方、デメリットとして次の点があります。
- カスタマイズは難しい
- データ形式によっては取引先が扱えない可能性がある
専用システムによる作成
市販の会計ソフトや経理専用のシステムを活用して請求書を作成することも可能です。
専用システムを使うメリットは、以下の通りです。
- 請求書データの一元管理が可能
- 請求書フォーマットのカスタマイズにも対応
- クラウド型などでは法改正にも自動対応できる
- 導入や運用に関してサポートを利用できる
- 郵送代行や紙媒体の保管代行などを依頼できるサービスもある
一方、次の点がデメリットとなる可能性があります。
- 導入時の初期費用やランニングコストがかかる
- デバイスやインターネット接続が必要
- システムメンテナンスなどで使用できない時間がある
多くのシステムではトライアル期間が設けられており、正式導入する前に無料でお試しができます。機能や操作性、サポート体制などを確認するためにぜひ活用しましょう。
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