働き方改革の一環として、令和2年4月から「時間外労働の上限規制」が中小企業に適用されています。
時間外労働の上限は原則として⽉45時間・年360時間となっており、違反すると罰則が科されるリスクがあります。
とはいえ、時間外労働を削減すると現場が回らない、事務作業が追いつかないという水道事業者も多いかもしれません。
そこで注目したいのが、中小企業事業主を支援する「働き方改革推進支援助成金」です。
この記事では、助成金の仕組みや活用事例をくわしく解説します。
働き方改革推進支援助成金とは?
働き方改革推進支援助成金は、生産性向上とともに、労働時間の削減などに取り組む中小企業、小規模事業者や参加の企業を支援する事業主団体を支援する制度です。
支給対象となるのは、労働者災害補償保険の適用事業主であり、条件に当てはまる中小企業の事業主です。
助成を受けるためには、5つあるコースごとの成果目標を達成するために、助成対象となる取り組みを実施する必要があります。
なお、この記事では労働時間短縮・年休促進支援コースにスポットを当てて解説します。
成果目標を達成した場合には、達成状況に応じて助成上限額の範囲内で取り組みにかかった費用の一部が助成される仕組みです。
ただし、経費削減のみを目的とした経費や、通常の事業活動に伴う経費などは助成対象として認められません。
申請から支給までの手続きには、申請書のほかに複数の添付資料が必要になるので、支給要領を十分に確認する必要があります。
また、交付申請期限は令和5年11月30日となっており、1日でも過ぎると申請できなくなる点に注意が必要です。
国の予算上限に達した場合は受付の締切が早まる可能性もあるので、なるべく早めに申請を行いましょう。
働き方改革推進支援助成金の対象事業主・取組・支給額
働き方改革推進支援助成金を申請するには、いくつかの条件があり、支給額の上限も決まっています。そこで、働き方改革推進支援助成金の対象事業主・支給対象となる取組・支給額について解説します。
対象事業主
働き方改革推進支援助成金の支給対象は、中小企業の事業主であることが前提です。中小企業の事業主とは、以下の資本または出資額、常時雇用する労働者数のいずれかの要件を満たす中小企業が該当します。
業種 | 資本金または出資額 | 常時使用する労働者 |
小売業(小売業、飲食店など) | 5,000万円以下 | 50人以下 |
サービス業(物品賃貸業、宿泊業、医療、福祉、複合サービス事業など) | 5,000万円以下 | 100人以下 |
卸売業 | 1億円以下 | 100人以下 |
その他の業種(農業、林業、漁業、建設業、製造業、運輸業、金業など) | 3億円以下 | 300人以下 |
そして、以下の3つすべてに該当していることも条件です。
- 労働者災害補償保険の適用事業主である
- 交付申請時点で、「成果目標」の設定に向けた条件を満たしている
- すべての対象事業場において、交付申請時点で、年5日の年次有給休暇の取得に向けて就業規則などを整備している
成果目標とは、助成金の支給を受けるために達成が必要な目標のことです。
以下の1~3のうち1つ以上選択し、目標の達成状況に応じて働き方改革推進支援助成金が支払われます。
- すべての対象事業場において、令和5年度または令和6年度内において有効な36協定について、時間外・休日労働時間数を縮減し、月60時間以下、または月60時間を超え月80時間以下に上限を設定し、所轄労働基準監督署長に届け出を行うこと
- すべての対象事業場において、年次有給休暇の計画的付与の規定を新たに導入すること
- すべての対象事業場において、時間単位の年次有給休暇の規定を新たに導入し、かつ、特別休暇(病気休暇、教育訓練休暇、ボランティア休暇、新型コロナウイルス感染症対応のための休暇、不妊治療のための休暇、時間単位の特別休暇)の規定をいずれか1つ以上を新たに導入すること
支給対象となる取組
働き方改革推進支援助成金の支給対象となる取組は以下に挙げる9つあり、このうち1つ以上実施する必要があります。
- 労務管理担当者に対する研修
- 労働者に対する研修、周知・啓発
- 外部専門家(社会保険労務士、中小企業診断士など) によるコンサルティング
- 就業規則・労使協定等の作成・変更
- 人材確保に向けた取組
- 労務管理用ソフトウェアの導入・更新
- 労務管理用機器の導入・更新
- デジタル式運行記録計(デジタコ)の導入・更新
- 労働能率の増進に資する設備・機器等の導入・更新
(小売業のPOS装置、自動車修理業の自動車リフト、運送業の洗車機など)
なお、「労務管理担当者に対する研修」には、勤務間インターバル制度に関する研修や業務研修も含まれます。
デジタル式運行記録計や、労働能率の増進に資する設備・機器等の導入・更新は、原則としてパソコンや携帯端末は対象外です。
支給額
働き方改革推進支援助成金は、成果目標の達成状況に応じて、以下のいずれか低い方の金額が支給されます。
助成額は最大730万円です。
- 成果目標1~3の上限額および賃金加算額の合計額
- 対象経費の合計額 × 補助率3/4
ただし、常時使用する労働者数が30人以下かつ、支給対象の取組で6から9を実施する場合で、所要額が30万円を超える場合の補助率は4/5となります。
成果目標2と3を達成した際の上限額は25万円ずつですが、成果目標1を達成した際の上限額は以下のように事業場と時間数に応じて変化します。
事業実施後に設定する時間外労働時間数等 | 事業実施前の設定時間数 | |
現に有効な36協定において、時間外労働時間数等を月80時間を超えて設定している事業場 | 現に有効な36協定において、時間外労働時間数等を月60時間を超えて設定している事業場 | |
時間外労働時間数等を月60時間以下に設定 | 200万円 | 150万円 |
時間外労働時間数等を月60時間を超え、月80時間以下に設定 | 100万円 | ― |
成果目標には、対象事業場で指定する労働者の時間当たりの賃金額の引き上げを3%以上行うことを加えられます。
達成した場合、賃金を引き上げた労働者数の合計に応じた金額が支給上限額に加算して支払われます。
たとえば、常時使用する労働者数が30人以下の中小企業事業主が、1~3人の賃金を3%以上引き上げた場合は1人あたり10万円が加算される仕組みです。
成果目標をすべてクリアし、賃金の引き上げも行った場合の助成額は最大730万円となります。
働き方改革推進支援助成金の申請方法
働き方改革推進支援助成金の申請は、交付申請書と事業実施計画を作成のうえ都道府県の労働局雇用環境・均等部(室)に提出します。
申請書は厚生労働省のホームページでダウンロードすることが可能です。
必要な箇所を漏れなく記入したうえで申請を行いますが、複雑でわかりにくいと感じる人もいるかもしれません。
ダウンロードページには申請マニュアルも用意されているので、併せてダウンロードして確認しながら記入しましょう。
また、事業実施計画を作成する際は、経費を算出した根拠となる資料が必要となるので、複数の事業者から見積もりを取る必要があります。
働き方改革推進支援助成金の申請期限は令和5年11月30日です。
ただし、国の予算に上限があるため、場合によっては申請期限前に締め切りとなる可能性があります。
提出した内容について確認することがある場合は、労働局から連絡が入るケースもあるので、すぐに対応できる体制を整えておきましょう。
労働局の審査機関は原則1か月以内です。助成金を交付しても問題ないと認められた場合、労働局から「働き方改革推進支援助成金交付決定通知書」が発行されます。
働き方改革推進支援助成金の申請スケジュール
働き方改革推進支援助成金を申請する際の流れは以下の通りです。
スムーズに申請できるように、ポイントを押さえておきましょう。
1.交付申請書および事業実施計画の作成・提出
働き方改革推進支援助成金を活用するためには、交付申請書と事業実施計画を作成し、都道府県の労働局雇用環境・均等部(室)に提出する必要があります。
記載項目が多いので、支給要領や申請マニュアルを確認しながら記載しましょう。
2.審査・交付決定
審査終了後、申請書の内容に問題がなければ事業者に助成金の交付決定通知書が交付されます。
3.計画に沿って事業を実施する
交付決定通知を受け取ったら、事業実施計画の内容に沿って事業を行います。
交付決定前に実施した事業や機器の購入などについては助成の対象とならないため注意しましょう。
4.支給申請書および事業実施結果報告書の作成・提出
事業の完了後、支給申請書および事業実施結果報告書を作成し、労働局に提出します。
そのほかにも、いくつか添付資料が必要となるので、支給要領や申請マニュアルを確認したうえで提出しましょう。
提出期限は、事業実施計画書の内容を踏まえて改善事業を実施し、事業実施予定期間が終了した日から起算して30日後の日または令和6年2月9日のいずれか早い日までです。
間に合わない場合は交付決定が取り消される可能性があります。
5.支給・不支給の決定・通知および助成金の支給手続
提出した書類について審査が行われ、支給・不支給が確定し、申請者に通知されます。
支給が決定した場合は、助成金の支給手続きを行います。
6.助成金の受取
交付申請書に記載された金融機関の口座に助成金が振込まれます。
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働き方改革推進支援助成金の活用事例
働き方改革推進支援助成金は、どのように活用されているのでしょうか。
ここでは、助成金によって事業の成長につながった複数の事例を紹介します。
勤怠管理システムを導入した建設業の事例
労働時間の管理にタイムカードを使用し、集計作業はエクセルで行っていたため、打刻漏れや印字が見えづらいなどの問題がありました。
そこで、勤怠状況の正確な管理と集計作業の効率化を目的に、助成金を活用して顔認証システムと労務管理ソフトを導入しています。
その結果、本人以外がタイムカードを打刻することができなくなり、不正の防止が可能になりました。
また、時間外労働時間を削減する意識が高まったうえ、従業員の勤務状況がWeb上で確認できるようになるなど、職場環境が改善しています。
設計業務ソフトを導入した建設業の事例
以前から設計業務ソフトを利用していたものの、ソフトに互換性がなく電子データの変換作業に時間がかかっていた事例です。
助成金の活用により、新しい設計業務ソフトを導入できたことで電子データの共有が円滑になり、各担当者の作業効率が高まっています。
以前のように業務の停滞や、属人化なども改善され、スムーズな納品を実現できました。
部品回収設備を導入した製造業の事例
施削加工後の部品を従業員が集めていた工場では、手間暇がかかるだけでなく、人手不足のなかでも人員を配置する必要がありました。
そこで助成金を活用し、部品回収設備を導入しています。人間と機械それぞれの業務分担ができるようになり、人手不足の軽減や労働時間の短縮につながっています。
まとめ
働き方改革推進支援助成金(労働時間短縮・年休促進支援コース)は、職場環境の改善に向けた取り組みを行う中小企業の事業主を支援する制度です。
支給対象となる取組が多くあるなかで、研修の実施や労務管理用のソフトウェアまたは機器の導入など、水道事業者にも当てはまる内容となっています。
成果目標をすべて達成した場合の助成金は最大250万円ですが、賃金を引き上げた場合は労働者数に応じて成果目標の達成分に助成金が加算され、最大730万円となります。
水道事業者のなかには、スキルの高い人材の確保に悩んでいたり、労務管理に手間がかかっていたりするケースもあるでしょう。
働き方改革推進助成金を活用すると、現状の課題を解決できる可能性が高いので、今回紹介した内容を参考に申請することをおすすめします。
働き方改革推進支援助成金についてよくある質問
Q:30人以下の中小企業が賃金額を引き上げると助成金はいくらもらえますか?
A:事業主が賃金額を引き上げた場合、成果目標に加算して助成金が支払われます。
30人以下の中小企業事業主の場合、賃金を3%以上引き上げると1人当たり10万円(上限300万円)、5%以上引き上げると1人当たり16万円(上限480万円)となります。
賃金を引き上げる場合は、就業規則の作成および変更のほか注意点が複数あるので、事前に確認したうえで実施しましょう。
Q:対象事業主の条件に定められている「常時使用する労働者」にはアルバイトも含まれますか?
A:常時使用する労働者については、労働保険の常時使用労働者数で使用している人数に準拠して記入します。
短期雇用労働者や短時間労働者も含めて数えるため、日雇い労働者やパート・アルバイトも「常時使用する労働者」に含まれます。
Q:機器の導入が業者の都合で予定が1か月遅れる場合はどうすれば良いですか?
A:交付決定を受けた事業内容に変更が生じた場合には、原則として実施計画変更申請書を労働局長に提出のうえ承認を得る必要があります。
ただし、軽微な変更の場合には変更申請書を提出しなくても問題ありません。
機器の導入が1か月遅れるようなケースでも、事業内容や事業実施予定期間に変更がないのであれば、軽微な変更という扱いになるため実施計画変更申請書の提出は必要ありません。
Q:正社員だけに特別休暇を認める規定は助成対象外でしょうか?
A:正社員だけに特別休暇を与える規定の内容が、同一労働同一賃金ガイドラインに反していると認められる場合は助成対象外となります。
また、事業主が特別休暇の取得可否を任意に決定できるルールを設けた場合、事業主の考え次第で休暇申請をすべて否認できるようになるため、特別休暇を導入したとは認められません。
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