私たちの日常生活に欠かせないライフラインのひとつである「水」を扱う水道業界において、近年は景気低迷や節水設備の浸透などによる給水人口の減少が話題にあがっています。また、施設の老朽化の影響を受けた、設備更新の需要の高まりも課題です。
この記事では、日本の水道業界が抱えている課題や求められている改革について詳しく解説します。水道業界の現状や今後の見通しを知るうえで必要な情報をまとめていますので、ぜひ参考にしてください。
水道業界が抱える課題とは
水道業界が現在抱えている主な3つの課題について解説します。
人材の不足
水道業界だけでなく、日本のあらゆる業界や業種において、少子高齢化の影響を受けた人材不足の深刻化が重大な課題となっています。日本政策投資銀行の「わが国水道事業者の現状と課題[中間報告](2014年12月)」によると、水道管工事や水道設備に関わる技術系職員は、50歳以上の職員が約40%を占めるのに対し、20歳代の職員は10%前後にとどまっているという現状があります。
今後数十年の間に、50歳以上の職員が定年退職することを考えると、退職した人材をどう埋めるかが重要です。また、人員不足だけでなく、ベテラン社員がもつ専門技術の承継についても、早急に解消すべき重大な課題として認識されています。
対応策として、保守点検管理業務などの施設管理の共同化、水質検査や情報システム管理の一体化などが考えられています。加えて、地域の実情に応じた適切な事業の広域化を行うことで、施設の共同設置や事業効率化が期待できます。さらには、中国や東南アジア地域における海外展開を進める企業などでは、国を超えた広域化も視野に入れています。
施設の老朽化による更新需要の増大
水道施設の老朽化にともない、更新需要が増大していることも見逃せません。先述の「わが国水道事業者の現状と課題[中間報告](2014年12月)」では、日本の水道投資額は2009年度で年間約9,800億円というデータがあります。1970年代の第一の投資ピーク、1990年代の第二の投資ピークに投資された設備が老朽化している現在、厚生労働省は2050年度までの更新投資需要は約59兆円に上ると試算しています。
水道事業者の経営状態の悪化などによって、適切な設備更新が行われずにいることも要因となっています。水道事業者が更新の費用を捻出できないなどの理由から、法定耐用年数の40年を超えてもなお同じ水道管を使い続ける事例も増えています。2016年度には経年化率が14.8%に達し、管路の更新率は低位で横ばいが続いており、このままいくとすべての管路を更新するまでに30年以上かかるとされています。
また、地震や災害の影響も更新需要の増大を後押ししています。このような状況のなか、給水量の減少を踏まえて、更新する設備の選別や他の水道事業者との設備の共用などが望まれています。
人口減少による料金収入の減少
日本の人口減少により、水道料金の収入が減少している点も大きな課題です。原則として水道事業者は、水道料金でコストをまかなっていますが、水道を使う人が少なくなったために収入が減少している現状があります。
先述の「わが国水道事業者の現状と課題[中間報告](2014年12月)」によると、家庭での1人当たりの使用水量は、節水機器の普及も相まって、2000年をピークに有収水量の減少が続いています。
収入を確保するために、最終的には料金値上げに結びつく可能性が高く、節水志向がさらに高まる、利用量が減少する、といったサイクルも考えられます。
水道事業者に求められる改革
国民のライフラインに関わる水道事業では、現在抱えている課題の解消とともに、さまざまな要素に関して改革が求められています。安定性はあるとはいえ、事業としての発展や進化を目指すうえで、水道事業者が取り組むべき3つのポイントについて解説します。
経営戦略の策定
総務省は「水道事業の経営の現状と課題(令和3年12月)」のなかで、水道事業者を含む公営企業は、長きにわたって安定的に事業を継続するためには、中長期的な経営計画が必要であり、各企業に対して経営戦略の策定を要請すると示しています。
経営戦略の策定の基本方針となる「経営戦略策定ガイドライン」では、水道事業の高料金対策や、下水道事業の高資本費対策について経営戦略策定を要件化することが記載されています。また、経営戦略の策定に要する経費に対する特別交付税措置も追加され、水道広域化の調査・検討に要する経費などが対象に含まれています。
加えて、地方交付税措置として、水道広域化等の調査、検討に要する経費は上限額を最大1,500万円まで上乗せするなど、重点的に支援することが決まっています。
地方公営企業における経営改革に係る人的支援制度では、専門家の助言を活かし、地方公営企業等が経営改革に取り組むにあたって、地方公営企業等経営アドバイザーや、公営企業支援人材ネット事業の人的支援制度を活用できるよう配慮されています。
水道事業として中長期にわたる進化発展を目指すために、国の支援制度を活用しながら経営戦略を打ち立てる必要があるでしょう。
経営状況の見える化
「経営状況の見える化」とは、毎年度各事業者の経営状況を調査し、策定状況の「見える化」を推進することを指します。先述のガイドラインのなかで、経営戦略の策定に係る進捗状況を調査し、個別団体ごとに毎年度公表することが定められました。
具体的には、複式簿記による経理を通した経営・資産の状況の見える化の推進などが含まれています。経営状況や資産の数値化は、将来にわたって持続可能なストックマネジメントの推進、適切な原価計算に基づいた料金水準の設定に役立ち、長期的な水道事業の安定化につながります。また、2004年に定められた 「水道ビジョン」にも含まれる水道事業の広域化や、民間活用といった抜本的な改革の取り組みにも役立つとされています。
加えて、経営指標の経年分析や、他の地方公共団体との比較を通じた現状課題の分析も重要視されています。経営比較分析表を活用した公営企業の全面的な可視化を徹底することで、経営状況や課題が議会や住民にも「見える化」されるため、抜本的な改革の検討や経営戦略の策定の効率性がわかりやすい、というメリットが期待できます。
なお、上記経営指標には、流動比率などの経営の健全性、給水原価や料金回収率などの経営の効率性、そして管路更新率などの老朽化の現状把握などが含まれます。コンテンツには各公営企業が集計するデータや、似団体比較を示すグラフや表などが用いられます。
システム導入による業務効率化
先述した経営戦略の策定により、どのような効果を得られているか、また経営現状の見える化通して、必要な分析・検討するうえで、業務効率化に向けたシステム導入も必要です。
厚生労働省は、2009年7月に作成した「水道事業におけるアセットマネジメント(資産管理) に関する手引き」のなかで、アセットマネジメントの実践を支援するための簡易支援ツールを2013年に公表しました。簡易支援ツールは、作成必要データを入力すると、更新需要や財政収支の見通しを試算できるシステムです。
全都道府県にて使い方に関する講習会が実施されるなど、水道事業者のアセットマネジメントへの取り組みが推進されており、実際に2012年度から2016年度までの4年間で、実施率が約4割増加しました。
水道事業における業務効率の向上には、設計図面や申請書類の作成をサポートする水道工事の専用CADも有用です。資料作成の効率化が見込め、手計算や紙への記入が省けることで、大幅に作業時間を短縮できます。
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まとめ
水道業界は、私たちの生活に欠かせない水を安定的に供給し続ける役割を担います。他の業界と比べると、景気や経済の影響を受けにくく、安定性があるものの、人材不足や設備の更新需要の高まり、節水設備の普及や人口減少による収益の減少などの課題を抱えており、解消すべく国を挙げて対策を立ち上げています。
各公営企業が効果的な経営戦略を作成し、経営状況の見える化を実施するとともに、業務効率につながるシステムを導入することで、収益増大や業界全体の発展が期待できます。今後の水道業界の動向に注目したいところです。
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